「ひ、ひええ〜」 少女はさすがに焦りの声を発した。 「敵が多すぎるよ〜」 無数の小型機械がミサイルやらマシンガンやらで攻撃をしかけてくる。 その攻撃を紙一重でかわし、あるいはビームシールドで防ぎつつ、機械集団から全速力で逃げていた。 地上から見ると、ただの鳥の群れに見えるに違いない。 少女には翼が生えている。 精一杯はばたいて、空を駆け抜けているのだ。 「た、助けてぇ〜」 その姿はもはやボロボロであったが。 ――やはり、敵の本拠地なんかに乗り込むのではなかった。 建物に侵入する前に防犯装置が作動して、こんなことになったのだ。 いくら固体戦闘能力が高くても数には勝てない。 やがて、群れのうちの一機が少女を捕らえ、真横に平行して飛びながら銃口を向けた。 「うわっ!?」 とっさにビームサーベルを振り、なんとか発射前に撃墜する。 「も、もう死ぬぅ」 弱音を吐いてみるが、意味はない。 結局逃げ続けるしかないのだ。 だが、さすがに限界も近い。いっこうに追跡を止めない小型機械の群れのほうを振り返ると絶望すら浮かんでくる。 ――五分くらい経っただろうか。 機械集団はまだ追ってくる。 集中力が途切れ始めた。限界だ。 意識が遠くなるその一瞬、少女は左肩に焼けるような痛みを感じた。 「ううっ!?」 どうやらマシンガンが当たったらしい。 「い、痛いいっ」 左肩がほんとに痛かった。だが痛みでかろうじて意識を保つことができる。 必死で、必死で、飛べるだけ飛んだ。 どのくらい飛んだだろうか。 考える暇もなく、力尽きた少女は地上へふらふらと落ちていった。 ようやく小型機械の追跡可能範囲の外に逃げることができたようだが、それ以上なんとかする体力も気力も少女には残っていなかった。 意識が闇の中へと消えていった。 ジリリリリリリリリリ。 目覚ましが鳴った。 また朝の始まりだ。 真島京人(まじまけいと)はきわめて眠そうに目覚ましのスイッチを止めた。 この家の二階はよく日が当たる。このくそ暑い時期でもはや二度寝は不可能だ。 いや、二度寝とか言ってる場合じゃない。さっさと起きないと遅刻する。 京人はしぶしぶ体を起こした。 一人暮らしは楽ではない。これから朝飯の用意をしなくてはならない。 ベッドから降り、カーテンを開ける。 快活な音とともに真っ直ぐな光が無数に体につきささる。 いい天気だ。 だが、気温が高くなりそうで微妙だ。気分的に。 「……?」 ふと気づいたことだが、窓越しになんか妙な物体がある。 どうやら人間のようだった。 長い金髪がくしゃくしゃな上、白い服を着ているものだからどこの謎の物体かと思ったが。 とりあえずベランダに出てみることにする。 ……………。 なんでやねん。 何でこの少女は人ん家のベランダで寝てるんだ。 「……おーい」 まぁ、何か事情があるのだろう。とりあえず人間を尊重することにした。 「大丈夫か?」 「……すー」 気持ちよさそうに寝ていた。 なんかむかつく。 「おい、起きろって」 「うう〜あと五分……」 「あと五分じゃねェ! 誰なんだ、あんた!?」 少女はようやく目を開けたようだった。 「……へ?おはよう〜」 「ああ、おはよう……ってだからあんた誰?」 金髪の少女は数刻、首をかしげた後、 「……レクシェル」 どうやら名前らしい。外国人の名前だ。 日本語は話せるようでよかった。 「オレは真島京人だ。……それよりお前肩大丈夫か? 血まみれだぞ」 レクシェルの左肩付近は赤く染まっていた。最初は何かの模様かと思っていたが、どうやら血のようだ。 「あ、大丈夫。血は止まって……あたた、痛ッ」 「おいおい」 「だ、だめみたい……」 そんなこと言われても困る。 でもまあ、悪い奴ではなさそうだ(アヤシイ奴だが)。 手当てくらいしてやってもいいだろう。 包帯でも巻こうかと思ったが、本人曰く、放っておいたほうがいいらしい。 とりあえず、エアコンきかせてベッドで安静にしておけば大丈夫だろう。 レクシェルは、 「どうもありがとう」 と、微笑んでいた。 「食パンたべるだろ?」 朝食は、オレンジジュースとイチゴジャムトースト一枚を2セット。 今日はいつもの二倍の量作らなければならなかったので多少しんどかった。 「わーい、朝ごはんだぁ〜♪」 レクシェルは腹が減っていたらしく、トースト一枚をぺろっと食べてしまった。 「…………」 レクシェルは人差し指をくわえてこちらを見た。 「……」 「……」 どうやら京人のトーストを見つめているようだ。 「……欲しいのか?」 なんだか申し訳なさそうにレクシェルはうなずいた。 仕方がない。 「ほら、もう残り四分の一くらいだけど全部やるよ」 「ありがとう〜♪」 レクシェルは幸せそうにイチゴトーストをかじった。 無論、左手は使わずに。 疑問なのだが、そもそもなぜ左肩をケガしたのか。 「おいしいよ〜」 京人は思い切ってきいてみることにした。 「なあ、レクシェル」 「みゅ?」 「おまえ、何でそんなに血まみれになるようなケガしたんだよ」 「肩のケガのこと?」 レクシェルが小首をかしげる。 「ああ」 「これは夕べの戦闘で負傷したんだよ」 「は?戦闘?」 「うん、戦闘」 戦闘って何だあ? 何のことだ? 銃撃戦でもしたのだろうか。 「あ、私、戦う天使やってるの」 「戦う天使?」 ますますわけがわからん。 しかも天使て。 「あーなんかその顔は信じてないー」 レクシェルが非難の声をあげる。 「じゃあ、これ。天使の翼だよ♪」 彼女がそう言うとともに背中から純白の翼が生えた。 まぎれもない、天使の翼。 実物なんて見たことはないが、京人はなぜかそう確信した。 |
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