――息は乱れたいた。 「ミリア……」 人を殺した感触。刃物で刺した実感。 相手の力がなくなり、倒れ込んでくる、重さ。 「俺は………」 走馬灯だろうか、 彼女の顔が浮かんでくる。 泣き顔、くるっとした顔、苦しそうな顔……… ――笑顔が思い出せない。 いつもいつも笑っているのに……… 「……。」 なぜ……。 自分が納得できないから? 彼女が満足に生きていないのに、納得ができるわけがない? 幸せを求め続け、ひたすらだった者の末路はこうなのだろうか。 死んだ。 「……し…んだ……?」 彼女は――これでよかったのだろうか…… 苦労だけ、していたような気がする。 働き者だった。自分のことよりまず他人を考える奴だった。 他人を幸せにすることで、自分を幸せにしているのかもしれない。 「ミリアは……」 泣いてもくじけない。 泣くけどくじけない。 ――たち直れないようなことに会わない限り。 「………ミリア……」 いなくなると、自分はどうするのだろう。 風が吹いていて、わからない。 光で火傷を負った手は現実を伝えようとする。 地面をなぐってみた。 あぐらをかいて、何どもなぐってみた。 「………。」 思えば―― 彼女も自分と似た環境だったのかもしれない。 周囲から孤立しながらもたった数人との心のつながりによって生きている。 だからその数人は大事だ。 セレス自身今まで気づかなかったが。 声は思い出せる。 「セレスっ♪」 ―――こんな声だ。 ところで、セレスは頭を地面にぶつけた。 あぐらをかいたまま体が前に倒れ、額をぶつけた。 「…………は?」 なぜ、そうなったかといえば、背中に圧力がかかったからだった。 「おい…。」 「なーに?」 「なんで生きてる……。」 背中にのってるのは間違いなくミリアだった。 「目が覚めたら、セレスがいたの。」 「まったく……。」 「もとにもどったセレスがいたの。」 「実を言うと……子供のかえられていたときの記憶はあるんだ。」 二人は、フィーナを探していた。 いつのまにか姿を消した彼女は、かわりに大量の血液を刻んでいる。 「あ、それじゃひざまくら覚えてるんだー」 「うるさい。」 周囲はおもいっきり人間界だった。――魔界特有の気配が感じられない。 それでも血の跡があった。 気にはかかってもなぜかはわからないが。 「じゃあセレス、フィーナのことも覚えてるの?」 「……ああ。」 「フィーナやさしかったよね。私もちょっとびっくりしちゃった。」 「……。」 「いつもすごいお姉さんなのに顔くずして笑ったり泣いたりしてた。」 セレスとフィーナは冷戦というか、そういうような状態にある。 幼いころのことが原因なのだがいままでずっと解決してない。 さすがは強情な姉弟である。 「だから何だ?仲良くしろというのか?」 身長差のためか、上目づかいで複雑な表情をしている。 ――こくっとうなずいた。 「……。俺は別にいつもでも憎いわけじゃないが……。いまはまだ、その時ではない。」 時間がかかる。憎んでいた時間と同じか、それ以上の時間が。 言外にそう言ったが、ミリアはわかったろうか。 「うん、…そっか」 再び前を向いた。 と思ったらまたふりむいた。 ――いそがしい人だ。 「そういえば、リースは!?」 思いだしたようにミリアが叫んだ。 「リースは生きてるの?」 「……。」 ――考察。 そういえば何がどうなったのか。 そもそもミリアが生きていること自体、おかしなことなのだ。 魔法の剣で刺されたのに、だ。 「まてよ、クリスタルライト・ブレード……自分が望んだものを全て破壊する……」 と、いうことは―― 自分が望んだもの以外は破壊されない…… ミリアとリースには死んでほしくなかった。 その思いが現実に作用したならば、そういうこともあるかもしれない。 ――精神の剣ともいわれる所以だろう。 「ミリア、川を探すぞ」 「え?」 「あいつがいるとすれば――川だ。」 ミリアは、この推論がわからなかったが、とりあえず言うとおりにすることにした。 ――二分後。 リースは発見された。 川で。 なぜ川かというと、セレスいわく、 「ここらへんでリースが落ちているのに笑える場所はそこだ。」 とのことだ。 「ミリア様ーっ」 リースがとたとた城をかけめぐっていた。 城の者はみな、ミリアとリースの区別がつかないといっていたが、それは外見だけで、 しばらく見ればすぐわかるとも言っていた。 「リースーっ」 ミリアがとたとた城をかけめぐっていた。 なぜかお互いにお互いを探しているのだが、お互いに居所がわからず、 お互い道に迷っているようだった。 セレスは誰か”まぬけ”と言わないか期待したものだ。 「あ、セレス?リース見なかった?」 「見たような気がするが、現在地は不明だ。」 「そーなの?」 うーん、と考えこむミリア。 「ひとつ、質問がある。」 「…え?なーに?」 彼女は思考をぬけだせて、すっきりしたようだったが。 「魔神がおまえに乗り移ったとき、おまえはどうしてた?」 うーん、とさらに考えるが、答えははやかった。 「寝てたよ♪」 「………わけがわからんな…」 セレスはため息をひとつつくと、読書を始めようとした。 「でもね、なんだかあたたかかったよ。それになつかしかった。」 「よけいわからんが…」 「それじゃ、私、リースを見つけに行きまーすっ♪」 また、とたとた走りだした。 ――しかし。 あの魔神は魔神でないような気がしてならなかった。 力は強大だったが、神ほどではなかった。 一部分の召喚だとしても魔術師は背後の力を感じることができる。 彼は疑問を残したまま本を読み始める。 『神の存在と魔法理論』 「リースはさあ、大っきくなったら何になりたいの?」 十七歳の女が話すことでもないだろうに、お子様なミリアは言った。 三十分かかってようやく二人が会ったのは誰かカウントしてない限り、知ることは不可能だった。 「ほえー」 「ああ、はやくすてきな方があらわれないでしょうか♪」 十三秒後、リースは我にかえる。 「ミリア様は何になりたいんんですの?」 「うーん、私はね、………。」 ミリアはこてっと倒れて空を見上げた。 雲ひとつない空の青いパステルはミリアの瞳の色とよく似ていた。 「……私は、幸せになりたいな♪」 |