靴音が高く響く。
――アルザスは歩いていた。
足以外は動かさず、きっちり直線を描いて進んでいる。
そう、その一直線上――ネストレックの方へ。
「……どうしました…?」
ネストレックは相変わらず表情をくずさない。
「…。」
シャアッ!!
空気を斬る音とともに、水をもって周囲がなぎ払われた。
冷たく輝くひまもない一瞬のうちに水は四散し、空間にとけこんだ。
だが、ネストレックは後ろに退いてかわしていた。
「……なんの真似です?魔界冥王《ゴースト・ロード》アルザス。」
そう発すると、七、八歩離れていた間合いをつめるべく歩きだす。
別に仕返しに攻撃するわけでもないのだろうが、目つきの悪い黒い瞳から
生まれる”殺すための心”を否定もできない。
臆することなくアルザスは静かに言う。
「ネストレック。貴様の考えを聞きたい。貴様が”星の守護”として活動するならば…
 もうひとりの”星の守護”――魔王様との思想と明らかな相違点がある。彼女が人類を
 尊重しているのに対し、貴様は人類をテストするために破壊をぶつけている。…なぜだ?」
「それが私の思想だからですよ。あなたがたは魔王様の影響を受けすぎている。
 しかし世の中には権利を一人に集中させることなどは危険だという事実があるのですよ
 ……特に……”星”に関しては少なくとも二人は最終決定権を保持する必要があります。
 人類を滅ぼすかどうかのね……。」
「そのために生命が失われていくというのか?」
――当然、と言わんばかりにネストレックは歩きはじめた。
数歩進むと、アルザスとすれ違った。
「つまりあなたは私にこう言いたいのですね。”感情はないのか”と。
……心配する必要はありませんよ。基本的にあなたがたと精神構造は同じですからね。」
「……。」
アルザスもまた、歩きはじめた。
結局、彼の決心はついたのである。
 

「かわいそーだね。」
魔神”ミリア”は微笑をうかべた。
――残忍で、無垢なる瞳。
その表情はさながら降臨した混沌《カオス》のようだった。
足元では、フィーナが倒れている。
「……く…っ……」
全身を切り刻まれ、槍をつき立てられている。
大量の血液を流しながら、それでもなんとか命を保っていた。
「セレス………」
傍らにセレスがいる。
彼は下をむいていた……。
もう何を憎み、何を悲しみ、どうすればいいのか分からない。
否――。
心の奥が告げた。
やるべきことは――魔神”ミリア”を憎み、彼女のせいで壊されたものを悲しみ、そして――
「おまえを…殺すっ!」
同時に、コンマ一秒で剣を抜き放ち、横になぐ。
だがミリアに指で止められた。
「……!」
しかしその瞬間、剣の柄から手を離し、蹴りを放つ。
空を斬った。
そのスキだらけのところに、ミリアは衝撃波を打ち込んでくる。
大きく後ろに飛ばされながら、体勢をたて直して攻撃に備え――ミリアは何もしてこない。
――だが、格闘が通用する距離でないし、魔術の詠唱に入れば間違いなくスキを作ってしまう。
結果、魔術は中断される。
「セレス……理って知ってる?」
「……。」
ミリアは、戦闘態勢をといた。
「ある書物には私――魔神のことを”滅ぼすもの”とかかれてあった。伝承には”もうひとりの神”
として語り継がれている。でもそれは私の一面でしかない。」
空中に浮いているようにゆっくりセレスに近づいていく。
「あなたは”星の剣”。”星の守護”による最終審判《ジャッジメント》を強制変更して、
地表を守れる権利と力がある。……だから……”星の守護”ネストレックは”魔神”を召喚した。
あなたとミリアを滅ぼすために。地表が壊れたとき、次に創造神になるのは私だから…。」
「な…何を言って……」
「理だよ」
ひょいとセレスの短剣をひろいあげるミリア。
端からパラパラと崩れ、剣は塵へと化し、風に帰した。
「……!」
「こんな剣なんていらないでしょ。」
笑顔で言っていた。――おかしい。
「……貴様が何を言っているのか知らないが……俺は貴様を殺す……」
詠唱。
最後のカケで魔法の詠唱をする。
十数秒、あれば完成する。
問題はそれまでの時間をかせぐことだ。考えてみれば無茶な話である。
「殺すの……?」
ミリアが腕をふるうとレーザー状の光が数本、直進する。
間一髪、横に飛んでかわし、攻撃に対する防御体勢をとる。
「私……」
瞬時、とんでもない加速度の光の球体が4個、タイミングをずらして拡散する。
初めの光球は後に飛んでかわし、着弾、次く第2波もしゃがんでやりすごす。
「……。」
3球目が急角度で減速して、4球目は急停止しホーミングする。
(かわせない)
そう思う余裕もない。まもなくセレスに全弾が直撃――――
いや、寸前に消えた――?
「そっか……きかないんだね。その魔法の詠唱中……光はすべて吹いこまれる…」
たいして驚きのない口調でつぶやく。黒がかった青い瞳。
黄色がかった金髪。黒い――心、いや――
「水晶剣《クリスタル・ライトブレード》!」
完成した。
身長の2倍もの光の剣がエネルギーを巻き散らして不安定な形状を保っている。
ただ、まぎれもなく剣だった。
「こ……ろす……!!」
憎悪。怒り。……セレスの目はその色だった。
疾る。
目標を破壊する…。目標を破壊する…。目標を…殺す…。
目標を殺す…。目標を殺す…。目標を殺す…。殺す。殺す。
殺す。
「…忘れないでセレス。私は子の世界が、星が大好き。
セレスも、ミリアも、リスカも……みんな大好きなんだよ」
――そうか……
――”ミリア”は、俺に負けたかったんだ。
負けて、俺を生かしたかった。だから――
 
 
 

深々と、光の剣は”ミリア”を貫いた。光に、まぶしい光につつまれて。
 

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