三、闇の変動


 

魔界の城は、夜には暗くなる。
六大元素クリスタルの万物構成元素相対比率が地上と違う世界。
星の表面―人間の住む世界では万物は六大元素のうち、大部分が地、水、火、風の
四大元素で構成されている。光、闇の極性元素は、太陽の光があるためさほど必要ない。
対して魔界はというと、まず、元素基盤としているのに対し、魔界は闇の元素を基盤に
四大元素を構成しているため空がいつも暗い。
よって、光の元素を常に消費し続ける。一方、闇の元素は、”基盤”であるから、
消費するわけでもなく存在する。
魔族の守護属性が地、水、火、風、闇だけで、光がないのはこのためである。
――つまり、魔界の本当の色は闇なのである。
夜とは正に闇の踊る刻であった。
「……アルザス、質問があるわ。」
涙でほおをぬらした跡がかすかに見られるフィーナ。
魔界で実力があるとされるのは、”魔界三師”と”魔界四王””魔王”
魔界三師は”邪呪法師ネストレック””魔界幻師ティレオル””魔剣士師ラヴィロア”
魔界四王は”魔界竜王《ドラゴンマスター》ルーク”、”魔界冥王《ゴーストロード》アルザス”、
”魔界鳥王《ストリームバード》フィーナ”、”魔界獣王《ビーストキング》ラーガ”
だが――ただ二人。
魔王と邪呪法師ネストレックだけが群を抜いた実力を持っていた。
だから、彼らには逆らえない。
「魔神と戦って、勝てると思う?」
青い髪で左目を隠し、ロングコート。前述のとおり、魔界四王のひとりである。
フィーナの質問に彼はこう答えた。
「……魔神は創造神と同じ”神”だ。だから私達の尊敬する魔王様であろうとも
勝てるとは思わない。――まして、お前ひとりでは何の効果にもならない。
馬鹿な考えはもたないことだ。」
「あたし、馬鹿かしらね……」
フィーナはそう信じたくない気がした。無駄に死ぬことさえ、それは無駄ではないと思う。
「でも、あたしは戦う。……後悔しながら生きていくのは嫌だから……」
手にウィンド・スピアを持ち、握りしめるフィーナ。
アルザスの表情はそれを見ても変わらなかったが。
「私はお前の行動を止めはしない。」
――”行ってこい”フィーナはそう言われた気がした。
たとえ帰ってこれることがなかろうとも。
「じゃあ、行ってくる。」
涙を流しているのを見せないように、見られないよにその場を去った。
セレスを守るために。
 

――闇は驚くほど奇麗だった。
「セレス…死ぬ前ってどんな気持ち?」
「……く……う……」
魔神はセレスの首をすこしずつ絞めていった。
「かわいい…。あなたの痛くて苦しい顔……もっと私に見せて……」
ぎりっ、とだんだん地からがこめられていく。
ミリアの体であろうとも、その脱力はすさまじいものだった。
どんなにうあってもビクともしない。
だが、殺しを楽しむかのように少しずつ、少しずつセレスの首を絞める。
――長く時間が過ぎたような気がする。

ふいに、セレスは首を絞められる力から開放された。

激しくせきこむ。
同時に思考能力がもどってきた。
――なぜ魔神は手を放したのだろうか。
「なーに?フィーナちゃん。」
視線の先にはフィーナがいた。
魔神は自分の背中に突き刺さったウィンド・スピアをひょいっと抜くと、造作もなく投げ捨てた。
血は全く出ていない。
傷は受けた瞬時に回復できるらしい。
「魔神様、あんたを倒しに来たわ。」
魔神の足元に転がっているウィンド・スピアが緑色に光り、フィーナの手に戻る。
「へ?、私にケンカ売るんだね。…………待ってて、セレス。後からゆっくり殺してあげるから。」
魔神の周囲に黒い力がうずまき始める。フィーナの風の力に対抗するように、
黒いかまいたちが空気を絶えず切りきざんでいる。
「……でもうれしーな。私に対してそんなに強気なんて、フィーナ。殺してあげるよ。」
勝てるとは思わない。
なぜ恐れないかというと、命を捨てる覚悟だからだ。
――セレスのために死ぬことが、今の自分にできる精一杯のつぐないであると。
守りきれないことを悔やみながらフィーナはウィンド・スピアをかまえた。

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