二、策略は始動し、犠牲を生む
「フィーナ。精神水晶剣〈クリスタルライトブレード〉とは何だ?」 セレスは、3人の中で一番賢そうなフィーナに聞いた。 「……知ってるの? その単語を。」 彼女はきわめてマジメに問い返した。 「なに? それ。」 ミリアはきわめてのん気に聞いた。 ―フィーナはひと呼吸おくと、 「すべてを切り裂く刃―精神水晶剣〈クリスタルライトブレード〉…… 光の勇者だけが使える最終奥義よ。」 ミリアが理解するかどうかギモンだが、とりあえず説明する。 「?」 ……やっぱりわかんないみたいだけど。 「あ、それ聞いたことがありますわ。」 リースは、思いついたように言った。 「たしか……千年前の光の勇者が光の剣〈ライトブレード〉の基本構成法則を媒体に、 様々な付加、排除を行い自ら創り出した、絶大な破壊力を持った 具現化持続物理魔法……だったと思いますわ。」 何かの文章を丸暗記していたように、ひとさし指をたてて。 「……俺がさっき読んだ文章そのままだな。」 セレスは、さっきまで本を読んでいた。ミリアとリースといっしょに。 「あ、私、暗記得意なんですわ♪」 ―じゃあ、「聞いたことがある」んじゃなくて「覚えている」のではないか。 と、セレスは思ったが、そんなささいなことはどーでもいい。 「え? リース、暗記得意なの?」 なのに、ミリアは余計なことを。 「えっへん。そーですわ。」 リースもちょーしにのってる。 「うわ♪ すごい♪ ねーねー、昨日の晩ごはん何だったか言って♪」 「大根の葉っぱのしょーゆがけと、焼きにんじんですわ!」 「すご〜い♪ じゃあ昨日の昼ごはんは?」 「えーと……あ、たしかトカゲのあぶり焼きでしたわ♪」 「すごい、すごい♪」 「やかましいぃぃっ!!」 セレスが怒鳴った。 おそらく、2人はただ単に記憶力テストをしているだけなのであろう。 ――しかしっ! 食事についてのことはやめてもらいたい。 そう、確かに金が無いから食事は貧しいもので、トカゲとか食ってるが、 それは生き延びるためには絶対必要なのである。 この4人は、最近ロクなものを食べてない。 ――だから、セレスには2人の会話がイヤミにきこえる。 「食事が貧しいことは言うなっ!」 との、セレスの言葉にミリアとリースは、 「え? でもトカゲさんけっこうおいしーよ♪」 ――おい。 「そうですわ♪ しっぽだけちぎって、あとからじっくり焼いて食べるんですよね♪」 「そーそー♪ お塩とおしょーゆ、どっちも合うしね♪」 …………。 セレスは思った。 自分が収入を得て、普通の生活をさせてあげよう、と。 かわいそうに2人は人生を踏み誤っている。 ここらで戻してやらねば、とりかえしのつかないことになりそうだ。 セレスは、この町でがんばって働こうと5歳ながらに思った。 「――セレス。」 フィーナがようやく口を開いた。 このごろフィーナは何かおかしい。 ――なんというか、とてもゆううつなのだ。 「精神水晶剣〈クリスタルライトブレード〉でどうするつもりなの?」 ――元気がないというか悩みがあるというのか。 今までにもいくらかこんなことはあったが、はっきりと感じるようになったのは最近。 「どうするつもりなの?」 ――はっ! そこまで聞いて、自分がフィーナの言葉を全く聞いていなかったことに気づいた。 「……いや、……俺はその剣でネストレックを倒すつもりだ。」 ネストレックを倒す―― その言葉を重く感じたのはフィーナだけかもしれない。 それがどんなことなのか、本当に知っているのはフィーナだけかもしれない。 「本気なの?」 フィーナは知っている。かつて精神水晶剣〈クリスタルライトブレード〉を用いて ネストレックと戦い、敗れたものを。 ネストレックは、最強の奥義さえも通用しないのだ。 セレスでは勝てない。ましてや、今のセレスは子供なのだ。絶対に勝てない。 「ああ。」 セレスはきっぱりと言った。 「…………。」 思わずフィーナはセレスを見た。 自分と違って、生き生きしている。正直な感想がそれだった。 「セレス様っ、あれ、宿屋ですわっ!」 膜を破ったのはリースだった。 彼女は楽しそうだった。もうすぐ死んでしまうというのに。 なぜそんなに楽しそうなのか、フィーナは理解できない。 「うむ。宿屋だな。」 「わ〜い♪ やどやぁ?♪ スパゲティ食べたいなぁ?♪」 「……ミリア……宿屋と食堂を同じにするな。」 「え? だって宿屋ってごはんを食べれるよ。」 「そ、その“宿屋でごはんを食べられる”って……そもそも、宿屋は泊まるところですわ。」 「みゅ? ……そーだね。」 ―残り数日。 運命の日まで、フィーナはどうしても明るくいられないでいる……。 |
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