「いっぱいあるね♪」
でっかい袋の中の、たくさんの野菜をながめながら、ミリアは言った。
普通のご家庭の料理に使えるくらい、たくさんの種類、個数の野菜がそこにある。
「でも、お肉がないよね」
ミリアは調子を外したように不満をもらす。
――リースには、肉がない理由がなんとなく想像がついた。
わかりやすく、簡潔な文章で述べるとすれば、
“肉は高い”ということである。……なんか悲しくなってくる。
でも、リースはそんなことはどーでもよかった。
「ねぇ、ミリア様。子供になってしまう前のセレス様って、どんな感じだったんですの?」
少々、土まみれのジャガイモを袋から取り出しながらたずねた。
「え、セレス? う〜ん……」
ミリアはひとさし指を口元にあててしばらく考えた。
「えっとね、セレスは――すごーくやさしーんだ」
「え?」
リースは信じられなかった。背が高くてかっこいいとかならわかるが、第一に思い出す
のが“やさしい”とは考えがたい。それとも、リースに会う前はそんな感じだったのか?
「セレス様って、最近性格変わったりなんかしちゃってますの?」
「?? ――ううん。いつもどーりだよ。でも、初めて会った時よりちょっぴり優しく
 なったかな? そうそう、セレスって私の初めての大事な友達なんだ♪ いつも
 そばにいてくれて―― 
 だから、早くもとの姿にもどって、記憶を思い出してほしいな♪」
…………。
リースから見たセレスの優しさというのは、彼の無愛想で、冷たくて、そっけない性格の
中に、ほんの少しだけ見えるものである。本当は優しいけど、素直になれない――
そんな風な優しさを、リースは感じる。
なぜミリアは、まっ先に“優しい”と言えるのだろう。
まだまだ人生経験が浅いリースには理解できなかった。
「じゃぁ、ミリア様はセレス様のこと、どう思ってますの?」
リースは本題に入った。これがいちばん聞きたいことだったのだ。
「……なにがぁ?」
案の定、ミリアはよくわかっちゃいない。
「だからぁ〜、セレス様が好きか嫌いかって聞いてるんですわ!」
――自分でも気がつかないうちにミリアにせまっているのだが。
だからといって動じるミリアでもなく、しばし考えこむ。
「セレスはね、だ〜い好き♪」
彼女は満足げなとびっきりの笑顔で答えた。
…………。
それとは正半対にリースの瞳はだんだん曇ってくる。ライトブルーからダークブルーへ。
夜が明ける現象を逆から見るように。やがて、瞳が見える面積さえも狭くなる。
時間に反比例して小さくなるそれは、まばたきをひとつすることによって、もとの
大きさをとりもどした。意志とともに。
「私もセレス様がだ〜〜いすきですわっ!」
ミリアに負けないように、伸ばす音を思いっきりのばして言った。
にらんでるのかと思うほどの目で。にごった輝きをするライトブルーの瞳で。
――しかし、ごぞんぢの通り、ミリアに一般常識は通用しない。
「わぁい。それじゃあいっしょだね♪」
能天気にもほどがあると思えるほど、ミリアは笑顔で言った。

ぐしゃ。

普段からリアクションの大きいリースは、顔の半分が大地に埋まってしまった。
(な……何がいっしょなんですの……?)
何がって?
そりゃあ、2人ともセレスが好きってことがだと思うけど……。
そもそも、リースが恋心を持つのに対し、ミリアの場合は、自分にとって心の支えと
なってくれるセレスが人間的に好きなのだ。
そこには男女の区別はない。
――そんな意味では、最初っから2人の論点はずれている。
「どーしたの、リース。埋まっちゃってるよ?」
思ったことを口にしただけなのだろうが、リースにとってはでっかい岩がのっかってきた
ような脱力感さえ感じられる。
「ぷはっ!」
ようやく、彼女は顔をあげた――というより引っこ抜いた。
なぜかミリアは、サーカスでも見ているかのような顔をしていたが。
…………。
たとえ、ミリアの大好きがそのような類のものだったとしても、将来的に恋心に変わる
可能性はある。それにひょっとしたら、恋心にミリア自身が気づいていないだけかも
しれない。
「おもしろ〜い♪」
サーカスを見ている観客のように手をたたいて喜ぶミリア。
今度の一言は、脱力感を感じさせず、むしろリースの口を開かせる引き金となった。
「ミリア様っ!」
リースの、にらみつけるような表情に戸惑うミリア。いや、戸惑うというより
きょとんとしている。
「勝負ですわ!」
「……へ?」
――今の言葉はミリアならずとも理解できなかったであろう。
「セレス様をかけて勝負ですわ! 勝負内容は……えーと……料理ですわ!
 4人ですから、ひとり2人前ずつ、同じ料理を作るですわ! 時間は無制限!」
「???」
いきなりたくさんのことを言われたものだから、ミリアの頭はオーバーヒートしてしまった
よーだ。目がぐるぐるになっている。
「……つまり、料理を2人前ずつ作るですわ!」
リースは文章をできるだけ短くまとめた。
「うん! 料理を作るんだね♪」
やっと理解していただけたようだ。
「じゃあ、メニューは何にしますか?」
「う〜ん、カレー粉があるみたいだからカレーにしよ♪」
いつ調べたのか、ミリアの手にはカレー粉があった。
「カレーですね♪」
ぱぁーっと笑顔になっちゃうリース。
一呼吸おいて、我に返る。
(はっ! そーいえばこれは勝負でしたわ! 闘争心、とーそーしんっ!!)
かと思うと、今度はびしっとミリアを指した。
「言い忘れましたけど、料理は味、見た目、早さで勝負ですわ。
 それぞれ1ポイントづつで2ポイント以上取ったほうが勝ちですわっ!」
「うん、わかった♪」
闘争心のカケラもなく、ミリアはうなずいた。
(でも、“勝ち”ってなんのコトだろ?)
素朴な疑問をかかえてはいたけど。
ーーどーやらこれが勝負だと理解していないらしい。
「じゃ、さっそくはじめるですわ!」
かくして、リースのひと声とともに、かみあっていない2人の勝負は開幕した。

 

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送