「そこまでだ」
セレスたち4人が階段を上ろうとしたとき、あの声がした。
―――その声は――!
セレスが見上げた階段の上には、盗賊の親分とその子分らしき盗賊が数十人いる。
セレスは帯剣していないが、たとえ剣があろうと盗賊の親分に勝つことは不可能に近い。
さっきの一撃 (セレスの頭割り事件) で、親分は相当な槍の使い手とセレスは見ている。
槍はリーチもあり、使い勝手も剣とは別の面でよい。
短剣 (ショートソード) ではまともに傷を負わせることはおそらくできない。
槍をかわしてダメージを与えようとすれば短剣 (ショートソード) ではまず無理である。リーチ
もなく、セレスの腕も長くないので、傷をつける前に第2波がきてやられてしまう。短剣 (ショート
ソード) で戦うにはいったん槍を剣で受けとめなくてはならない。パワーがなく、スピードと
技術で勝負するセレスには酷である。
子供が大人の腕力にかなうわけもなく、槍に遠心力をつけての攻撃の場合、受け止め
られずにそのまま斬られてしまうかもしれない。
スピードと技術で勝負できないかというと、親分のほうもそれなりのスピードと技術がある
はずである。ならばパワーの差で圧倒的に不利になってしまう。
なにしろ、槍の一撃をすべてかわさなければならないので体力がもたないだろう。
――― 子供は不利である。
いずれにしてもセレスに勝ち目はない。
―――だが、それはセレス1人の場合である。
今は仲間がいる。一緒にいる仲間が。
「悪いけど……早く宿に帰って寝たいのよね……」
フィーナが含みのある声で印を結んだ。
ずどがぐしゃあああっ
一瞬にして階段がめくれあがり、崩壊し、十数人の盗賊と親分はガレキの下に吸い込まれる。
やがて煙がおさまってくると、斜め上前方に光が見える。
―――おそらくあれは地下9階なのだろう。
「……乱暴だな……ここは地下10階だぞ……」
セレスがジト目でフィーナを見ている。
フィーナの “風” の力で階段は根こそぎひっくり返って粉々になったのだが、その破壊力は
すさまじいものがあった。
かなりの量の石階段からできたガレキの山がそれを物語っている。
一歩間違えれば地下に生き埋めにしようと言わんばかりの大量の土やら岩石やらが
襲ってくるかもしれない。
セレスはそのへんを指摘しているのだ。
しかしフィーナは得意げな笑みを浮かべて、
「ちゃあんと計算して壊したわよ。横壁にヒビ入ってないでしょ?」
何やら術の詠唱をしながら言うフィーナ。
セレスはちらっと壁のヒビがないのを確認しながら、次の質問をする。
「で? ここからどうするんだ? 出口ははるか上だ」
セレスが上を見上げるのにつられてミリアも見上げる。
「きれーだね♪」
ミリアは、場違いなことを言いだす。おそらく、夜空に星みたいな感じで暗闇の中に出口
の光りが輝いて見えるのだろう。
「アホか」
セレスはあきれて、さらっと流すとフィーナが宙に浮いているのを発見した。
「あ、すごーい♪ フィーナ浮いてる〜♪」
―――あたかもめずらしいことのように言うミリアだが、実は特にすごいことでもない。
実際、空を飛べる魔術というのは、生まれつき魔力を持った者ならば数年学習すればすぐ
使える魔術である。ただしこの魔術には欠点があり、それは自分にしか効果がないという
ことである。他人にかけることはできないので、セレスはそれを使わなかったのだ。
使ったならば最悪の場合、3人をかかえて飛ばなければならないかもしれないからだ。
―――いくらなんでもそれは疲れる。
魔力が高ければ、それだけ高く、速く飛べるのだが、その際重力は負荷となる。
となれば、4人分の負荷だけ魔力を使わなければならないため、4倍疲れる。
さっき、さんざん魔術をぶっ放したあげく、魔力回復に必要な睡眠もとってないので、かなり
魔力は減っている。もーいーかげんかんべんしてほしい。
そんなことを思っていると、セレスは、自分の体が浮かんでいるような気分になった。
(―――いや、本当に浮いている)
心の中で、自分で訂正するセレス。
「わぁ♪ 私、浮いてる〜♪」
「きゃぁ♪ すごいですわ、すごいですわ♪」
ミリアとリースの声が聞こえる。内容からして彼女らも浮いているようだ。
「さて、あの出口まで行くわよ」
フィーナはそう言うと、手のひらを返し、同時に4人は空間転移をはじめる。
―――フィーナの術はすごい。4人を浮かせるなどという芸当は、人間では滅多にできる
ものではない。
――― “滅多に“ といったのは、それにあたる法術があることはあるからである
しかし、その法術はかなり高レベルの法術で、生まれつきの法力がある程度高くないと
まず無理な難易度をほこる。どんなにがんばっても取得できない法術士もいるほどだ。
ミリアはもちろん、セレスも基本的に法術を習っていないので使うことは出来ない。リースも
あの様子からして使えないのだろう。
だが、フィーナの使っている術は法術とは別のものだろう。彼女はさっき詠唱のような
しぐさの中、しゃべった。普通、しゃべると詠唱は止まり、術は中断されるのだが、フィーナは
平気で術を発動させていた。言葉を発しないと術も発動しないハズだが何も言わずに浮いた

おそらく、魔族特有の術なのだろう。
―――4人は出口―――といっても地下9階の入り口に上っていた。
まるで、仕事を終えた後のように、セレスは安心にひたったのだった。

 

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