それからセレスとエドルは話をしていた。
でもミリアはほとんどの話を聞いていなかった。
ミリアは別のことを考えていた。
セレスとどうやったら仲良しになれるんだろう?
エドルの言うように自分からどんどん話しかければしゃべってくれるだろうか?
胸が痛い。
心臓が鈍くはねる。
情けないことに自分は誰かに愛されなければ生きていけないのだ。
たぶん、セレスに嫌われたら――死を選ぶ。
そんな気持ちが心を冷たい鎖で縛ってしまう。
でも、がんばろう、となぜか能天気に思ったりした。
「おい、ミリア」
セレスが呼んだが、ミリアは考え事をしているため聞こえていなかった。
「ミリア」
ミリアはまだ何も気づかない。
セレスはある意味怒ったようだった。
「最終的には殴るぞ、お前」
セレスはミリアの左手をつかんで、出口にむかった。まだ、ミリアは何も気づかない。
ずるずるずると引きずられたいた。
なんか異様な光景で、エドルは大道芸でも見ているかのような目をしていた。


組み合いの建物を出て数歩のところで、ミリアははっと気がついた。
下りの階段を引きずられて下りたために、がしがし足をぶつけたせいだった。
「い、いたい〜」
ミリアは足を押さえてうずくまった。
「お前はそこまで意外性に富んでどうする気だ」
「ちょ、ちょっといろいろ考え事があって……」
「まぁいい。行くぞ」
ミリアは頭のうしろをかいた。ちょっと照れた。
「うん」
言って、またセレスのうしろを歩いた(足は痛いが)。
――セレスの背中は力強い。
様々なことを乗り越えてきた背中だ。
自分の悩みや苦しみなどはそれに比べてとても小さい気がする。
私も強くなりたい。
絶対にくじけない、心が欲しい。
ミリアは速く歩きだした。
てくてくてくてくてく……。
ついにセレスを追い越した。
「やったー、セレスに勝ったー」
「…………」
セレスは驚きあきれたようだった。
「何がだ?」
「ううん、なんでもない」
ミリアは笑って、今度はセレスの横に並んで歩き始めた。
本当の友達は、並んで歩くものだ。
彼女は何気なくそう思ったようである。
「……わけがわからん」
「あ、何か情報あったの? レナコートの町の何かの」
「ああ。どうも1人の魔族が病を広めたらしい。ロザリオ病は死霊術のひとつだが、
 町ひとつを占領するにはとんでもない魔力が必要だ。魔族というなら納得できる」
「うん、うん」
「あいつが言うにはレナコートの町に行くと必ずその魔族にロザリオ病にされるとか
 言っていた。……問題はどうやってそいつを殺すかだ。
 術者の死によってロザリオ病の魔力は効力を失う。
 ……方法は2つ。ひとつは直接レナコートの町に乗り込む方法だ。危険だが、
 感染後3日以内に殺せばいい。
 もうひとつは遠距離からの広範囲爆破だ。町人は全滅だが俺らに危険はない」
「ば、爆破はダメ」
「……だろうな。危険だが直接町に行くか。命の保証は無いぞ。いいな?」
「うん、わかってる」
ミリアは力強くうなづいた。
死ぬのは怖いが、セレスと離れるのはもっと怖い。
「セレス、がんばって町の人を助けようね」
そして笑顔をした。
「……ああ」
しばらく2人は雑談しながら歩いた。

「おい」
「なに?」
果物売りの露店の前でセレスは立ち止まった。
ミリアもつられて立ち止まる。
「お前、りんごが好きとか言っていたな」
「うん」
「買って食え」
セレスは1枚の銅貨をとり出して、ミリアの手のひらに落とした。
「えっ? あ、あう〜」
だがミリアはキャッチできなかった。いそいそと拾いあげる。
「ありがとう、セレス。買って来るね」
ミリアは露店の方にてってってっと歩いていった。
「りんごください」
「いくつ?」
ミリアは自分もお金を持っていたことを思い出した。
「あ、ふたつください」
「はいよ」
優しそうなおばちゃんがちっちゃい紙袋にりんごを詰め込んで渡してくれた。
「うわぁ、おいしそう〜♪」
「そうだよ、色が真っ赤だろう?」
「うんっ」
ミリアは銅貨2枚をおばちゃんに渡した。
「毎度!」
かるく手を振っておばちゃんにお別れした。
てってってってってっ。
セレスはさっきの場所で待っていてくれた。
「買ってきたよ〜セレス〜」
「ああ。行くぞ」
「待って……はい、セレスの分」
ミリアはセレスにりんごを差し出した。
「何……?」
「一緒に食べよう♪」
にっこり笑うと、セレスは受け取ってくれた。
「……まぁもらっておこう」
「うんっ」
ミリアは紙袋からりんごを取り出すと、やさしく両手で持って丸かじりした。
しゃくっと小気味よい音がして、口の中にじんわり甘味が広がる。
ほんのりとお日さまのにおいが香っていてやっぱり甘い。
「おいしいね」
「……ああ」
2人はりんごをかじりつつ、並んで歩いた。
「やっぱり私、普通でいいんだね」
歩きながらミリアはつぶやいた。
なんだかすがすがしい気分だ。頭でいろいろ考える必要なんてなかったなぁとすごく思った。
自分のままの自分って力がある。
「何か言ったか?」
りんごを食べながらセレスがこっちを向いた。
「ううん、何も」
思わず笑みがこぼれる。
しゃくっというりんごの音が胸に響いて、ミリアはとっても幻想的な雰囲気を感じ取った。
なんかそういう風な感じがする。

そしてりんごがもっと好きになった。
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