第1話 その2




星誕の剣。さっき見せてもらった絵の剣の名前だ。
この大陸を覆っているバリアは外界からの魔力エネルギーの伝達を遮断する。
この大陸では魔法が使えない。逆に言えば外界では魔法が日常的に使用されているらしいというのが昔から変らぬ学説だ。
だが、この大陸にはマジックアイテムが存在する。
魔法が存在しないこの地で、確かに魔力が宿っている道具がかなりあるのだ(そう大量にもないが)。
このことは長年研究されてきたが、すべて仮説にすぎなかった。
「ハルト・シティか……」
いつのまにか、見慣れた景色が目にとびこんできた。
どうやら電車で寝ていたらしい。
「あ、起きました?」
すぐ横にいるメリィが言った。
「おはよーメリィ」
「というか、寝過ぎですよ」
「いいの。眠いから」
メリィはやはりため息をついたようだった。
確かにエリィは彼女より睡眠時間が長いが、なんというか眠さの耐性が違う。
エリィは眠いと寝るのだ。
「……ハルト・シティか」
見慣れた光景を見て、自然に記憶が呼び戻ってくる。
「そういえば、エリィはこの街で生まれたんですよね」
「うん」
特に振り向きもせず、エリィはそのまま窓の外を見ていた。


二人は早めに宿をとった。
エリィはまだ眠いらしい。ので、彼女を部屋に残しメリィは街で買い物をすることにした。
「では、行ってきますね」
「うぃー」
「まじで眠そうですね」
「ああー、わたし昨日寝ずにゲームやってたんだよぅ」
「はぁ…そうですか」
「ねむー」
だが、メリィには心なしかエリィは元気なさそうに見えた。
「……行ってきますね」




ハルト・シティは大きな街だった。
店が数多く並び、人通りも多い。だからといって喜ぶ気にもならないが。
とりあえず買い物には困らなさそうである。
(なんか面白い事でもないですかねぇ)
今回のターゲット、リミリフルト家の屋敷でも下見しておきたい気分だが、無用なトラブルは避けたいのでやめておく。
要するに買い物でも楽しむかー、ということである。
それではまず、うめぼしだ。うめぼしを買わねばなるまい。
メリィは漬け物屋を探すことにした。

にゃ〜。
とかいう音が聞こえてきた気もするが、メリィはちょうど漬け物屋を見つけたところだったので無視した。
にゃ〜〜〜〜〜〜〜。
「…………。なんですか?」
店に入ろうとすると、メリィの足に猫がすり寄ってきた。
にゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。
「私は動物愛護の精神は持っていないので立ち去ってください」
よくわからん猫はメリィの足にくっついてすりすりしていた。
というか、離れない。
ふと、漬け物屋の張り紙を見ると「ペットおことわり」とあった。
にゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。
「いいかげんにしないと殺しますよ?」
メリィはつとめて笑顔で言った。
にゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。
メリィは、マントの下に装備している二本のロングダガーに手をかけた。
「すみません〜」
とてとてとて、と少女が走ってきた。
まだ幼い感じ、というかすごく幼い顔をしていて、ピンクのふわっとした髪が印象的な子だった。
「私の猫がどうもすみませんです」
少女はぺこりとおじぎをした。
「…………あなた、何歳ですか?」
「え?えと、じゅ十一歳……」
少女は言いかけて、びくっと体を震わせた。恐らくメリィの目が据わってるせいであろう。
「二度と私の邪魔をしないでくださいね?」
「は、はいぃ……」
よほどメリィの顔が怖かったのか、少女は半泣きだった。というか泣いてる。

……。 「う、うぇ、ふぇ……」
このまま放っておくのもどうかと思ったので、メリィは少女をなぐさめることにした。
「冗談ですよ。そんな顔しないでください」
ほんとは冗談じゃないけど。メリィは少女の頭をなでなでした。
「あうぅ…」
少女は依然として涙を浮かべていた。
「じゃあ、私が何かごちそうしますよ」
「ほえ?」
やはり、子供は食べ物につられやすいのか、ほんのり笑顔になる。
「ほ、ほんと?」
「ええ。そこの漬け物屋でうめぼしでも」
「…………」
「何か問題が?」
少女は涙を散らしながら首を横に振った。


結局、メリィは少女にパフェをおごることになった。
こういった出費にはレプティナは経費を払ってくれないので困る。
「はふぅ、おいしいですっ」
少女は生クリームをほおばって笑顔だった。
なんかほんとにおいしそうに食べるなあ。
一方メリィはぜんざいを注文していたりしたが。
「それはなによりです。ところで、あなたお名前は?」
「え?えっと、ミニルム=イフス=リミリフルトといいます。ミナって呼んでください」
「…………」
メリィはかなり悪どくにやり、と笑った。
「ふっふっふっふっふ……」
「えッ?」
メリィはさりげなく含み笑いをしたが、ミナは心の底からひいたようだった。
「ミナ。あなたのお家は大きなお屋敷ですか?」
「は、はいっ。大きいです」
前にも述べたが、今回のターゲットはリミリフルト家である。
おそらくミナはその家の娘だ。
これは笑いが止まらないというものだね。いえい(笑)。
「そうですか。申し遅れましたが、私はメリアーヌ=レインといいます。愛称はメリィですが、あなたは呼び捨て不可の方向で」
「は、はい」
「そうですねぇー。とりあえずこの後宿屋にきていただきますね♪」
「え、ええ?……えええ?」
このときのメリィの背後に漆黒のオーラが見えたという(ミナ談)。

エリィは相変わらず寝ていた。
いつまで寝てんねん、とつっこむ人もいないからであろうか。
メリィとの二人部屋なので夕方にはメリィが帰ってきて起こされることになるであろう。
でも、すぐ夜だから
また寝ることになるのだろう。
寝ることはいいことであるっぽいのでよしとしてほしい。エリィは一流の剣士であるが、まだ十七歳なのだ。
「エリィ、帰りましたよ」
「……」
エリィはメリィが帰ってきて、声をかけたのに反応しなかった。
「……」
「……」
数十秒の沈黙の後、メリィはおもむろにエリィの顔のほうに手を近づけてきた。
そして、ぐにーっとほっぺたをつまんだ。
「あいたたた、いたい、いたひ〜」
「目が覚めました?」
「あうぅ、ひどいようぅ〜」
エリィの抗議はとりあってもらえないようだった。
「それよりエリィ、この子連れてきたんですよ」
「え?連れてきた?」
「ほら、こちらです」
メリィの後ろには、ようやく十歳を超えたくらいの少女がいた。思わず抱っこしたくなるくらいかわいい。でもなんか顔色が悪かった。
「なんかおびえてるっぽいんだけど、その子」
「ええと、一応ターゲットの娘さんです」
「ああ……そういうことか」
メリィはこの女の子を使って任務を楽に達成しようという計画らしい。
「相変わらず悪知恵が働くねぇ……」
「知略と言ってくださいよ」
メリィがなぜか心外だという顔をしていた。
「まったく……。こっちおいで、お嬢ちゃん」
とにかく、エリィは女の子のおびえを取り除くことにした。
とてててて、と女の子がやってくる。
「うわあああぁんっ怖かったですぅ」
いきなしがばっと抱きつかれた。
……怖かった?ということは今、恐怖から開放されたのだろうか。
やはり間違いなく元凶はメリィということなのだろう。
半ばこの子を誘拐してきたに違いない。
「よしよし」
エリィはやさしく女の子の頭をなでてやった。

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